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がんの悪性度を検知する「ナノマシン造影剤」開発

[ 2016/05/18 ]

公益財団法人川崎市産業進行財団ナノ医療イノベーションセンター(神奈川県川崎市:以下、iCONM)にて、同センター長の片岡一則氏(東京大学政策ビジョン研究センター特任教授)とiCONM主任研究員の米鵬(Mi Peng)氏、東京工業大学教授の西山伸宏氏、量子科学技術研究開発機構チームリーダーの青木伊知男氏が出席した記者会見が行われ、がんの悪性度を検知する「ナノマシン造影剤」の開発が発表された。ナノマシン造影剤は、がん内部の微小環境で悪性度や治療抵抗性に関する「腫瘍内定酸素領域」を高感度でMRIにより可視化できる画期的な造影剤として期待されている。

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左から片岡一則氏、米鵬(Mi Peng)氏、西山伸宏氏、青木伊知男氏


がん内部の低酸素領域には薬剤が十分に届きにくく、放射線治療の効果も低くなるなど治療への抵抗性を示し、より悪性度の高いがんに変化して転移を引き起こす原因領域とされている。開発したナノマシン造影剤は、がん組織の微小環境を検知。MRIの信号強度を増幅するこれまでにない機能を有しており、既存のMRI造影剤よりも優れた腫瘍特異的イメージングを可能にすると研究チームは明らかにした。

ナノマシン造影剤では、直径わずか1.5mmの肝臓へ転移した微小な大腸がんを高感度で検出することにも成功しており、臨床で広く利用されている生体検査と比べきわめて低侵襲的で、体内のあらゆる臓器・組織に適用できる「イメージングによる病理診断技術」として実用化へ向けた動きは活発化している。また、治療前にその治療効果の予測や治療後の迅速な効果判定にも応用でき、将来的には見落としのない確実性の高いがん診断を可能すると期待されている。

悪性腫瘍(がん)のMRI診断においては、高感度化、がん組織の検出力(特異性)の向上、微小環境の変化など診断情報の高度化が望まれており、技術開発も世界中で行われている。このような状況において、ナノマシン造影剤は生体に対して安全で、がん組織での低pH環境に応答して溶解する「リン酸カリシウムナノ粒子」にMRI造影効果を有するマンガン造影剤を搭載した。

ナノマシン造影剤は、血流中の環境(pH7.4)では安定しているが、腫瘍内の低pH(6.5~6.7)においてpHに応じてマンガン造影剤をリリースする。加えて、ナノ粒子から放出したマンガン造影剤が、がん組織でのタンパク質と結合することにより、信号が約7倍に増幅する性質がある。これらの結果により、ナノマシン造影剤は、腫瘍の内部のpH(6.5~6.7)の僅かな変化に応答して、MRI信号を変化させる特性を有すると研究チームは考えた。そこで、がん細胞の皮下移植モデルマウスに投与し、MRI計測を行ったところ、投与30分で腫瘍全体が造影され、時間の経過とともに腫瘍中心部の信号強度が増大することが確認された(図1)。

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図1 高いコントラストでがん検出を可能にするナノマシン造影剤
がん内部の悪性度の高い領域で、より高い信号になり、がん内部の構造や特徴に関する情報を付加する。


腫瘍中心部で信号が顕著に増大する部分は、組織切片の免疫染色の結果から、がんの「低酸素領域(Hypoxia)」と一致し、加えて、がんの内部で乳酸が溜まる部位とも一致していたことから、ナノマシン造影剤は腫瘍内の僅かなpH変化を可視化し、「低酸素領域を高感度かつ高精度でイメージングできる」ことが明らかになった(図2)。さらに、このナノマシン造影剤をわずか1.5mmの小さな大腸がんの肝転移モデルにおいてMRIで計測したところ、既存の肝がん用MRI造影剤でもあるプリモビストよりも優れた検出力を示すことが明らかになった(図3)

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図2 がん検出だけでなく、その内部構造や悪性度の診断にも役立つ可能性
特に悪性度の高いとされる低い酸素濃度や低pHの領域で信号が上がり白くなった。この効果は安価な低磁場MRIでより強くなるため、臨床現場に存在するMRI装置が活用でき、がんの悪性度や治療抵抗性の診断に役立つと考えられる。

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図3 肝臓へ転移した1.5mmの微小な大腸がんを検出
ナノマシン造影剤は正常な肝臓では信号低下を生じ、肝臓がんでは高信号が得られたため、コントラストが非常に高くなる。


今回得られた結果については、臨床で最も広く普及している比較的安価な低磁場1テスラMRIにより得られたものであり、高価で導入台数の少ない高磁場MRIを必要としておらず、自動車で例えるならばエンジンに付けるターボのような役割を果たし、低磁場MRIでも高磁場MRIのような結果得られるとしている。また、これは医療費の抑制なども見込まれている。

同研究については、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)の研究成果展開事業「センター・オブ・イノベーション(COI)プログラム」の支援によって行われた。ナノマシン造影剤に関する研究の発表は、Nature Nanotechnology誌にて2016年5月16日にオンライン発行されている。

■発表雑誌:Peng Mi, Daisuke Kokuryo, Horacio Cabral, Hailiang Wu, Yasuko Terada, Tsuneo Saga, Ichio Aoki*, Nobuhiro Nishiyama*, Kazunori Kataoka*: A pH-activatable nanoparticle with signal amplification capabilities for non-invasive imaging of tumour malignancy. Nature Nanotechnology, doi:10.1038/nnano.2016.72(*責任著者)